紀元前4,000〜8,000年ほど昔までさかのぼると言われているビールの歴史。
途方も無いなが〜い年月をかけ、少しずつ進化し、世界に広まり、今では世界で2万を超える醸造所(ブルワリー)によって150以上もの種類(ビアスタイル)のビールがつくられています。
数あるお酒の中でも特に多様性に富んだビールですが、基本となる原料はたったの”4つ”。製造の工程も、世界中のほとんどの醸造家(ブルワー)に採用されている”決まった一連の流れ”が存在します。
今回はそんな、ビールの「原料」と「つくり方」を、実際に醸造をしているブルワーがご紹介します!
目次
ビールづくりに欠かせない4大要素
まずはビールの原料。ビールづくりに必要不可欠な原料としてあげられるのが、下のイラストの上半分にある4つ。
麦芽、ホップ、酵母、水です。
更に、この4つに加えて、スパイスやハーブ、フルーツなどの「副原料」を入れることもあります。
日本で最もたくさん流通している「ピルスナー」や、昨今のクラフトビールシーンの先頭をひた走っている「IPA(インディア・ペールエール)」をはじめとしたビアスタイルは、4つの原料のみでつくられています。
一方で、ベルギー発祥の白ビール「ベルジャン・ホワイト」のように、基本となる4原料に加えて、小麦、オレンジピール、コリアンダーシードといった副原料を使ってつくられるビールもいろいろあります。
それでは、これら4つの原料はビールを“ビールたらしめるため”にどんな働きをしているのでしょうか?それぞれの原料の役割を見ていきましょう!
麦酒たる由縁!麦芽のはたらきとは?
1つ目は「麦芽」。
「麦酒(麦からできた醸造酒)」とも書く「ビール」の原料で「最も重要」と形容されることもある麦芽。「発芽した『麦』を乾燥させたもの」のことを言います。英語では「malt(モルト)」といいますが、商品名などでよく見聞きすることもあるのではないでしょうか。
小麦、ライ麦、オーツ麦などなど、ビールに使う「麦」はいろいろありますが、使用する量・頻度ともに圧倒的に多いのは「大麦」。「麦芽の話をしていたら大体は大麦のことを言ってるんだな〜」と思っていただいてOKです。
主な役割は以下の4つです。
①アルコールに変わる糖のもとになる。
②味わいや色味に特徴をあたえる。
③炭酸を包み込むタンパク質のもとになる。
④ボディ(※)を決める要素になる。
※「ボディ」は、飲んだときに感じる味わいの濃淡や存在感の強弱を意味するビール用語です。
それぞれの役割について深ぼりしていくと、それだけで別の記事が書けてしまうほど、麦芽がビールづくりの過程で果たす役割の大きさと複雑性はものすごいです。
苦味と香りの生みの親!ホップのはたらきとは?
2つ目の原料は「ホップ」です。
この原料を一言で説明すると「蔓性(つるせい)の多年生植物」。一度植えられると10年以上も長生きする(=多年生)、他の樹木や物体を支えに茎を伸ばし成長する(=蔓性)植物です。
動物がオス・メスと分かれているように、ホップもひとつひとつの植物体(株)で雄と雌が違っていて、ビールづくりに使われるのは雌株の方。松ぼっくりのような形をした「毬花(まりはな・きゅうか)」という部分がビールの原料になります。
そんなホップの主な役割は、以下4つです。
①香りをあたえる。
②苦味をつける。
③泡持ちをよくする。
④保存性を高める(防腐作用)。
①と②の役割を果たしていることが、ホップが他の原料にも増して多くのブルワーやクラフトビール好きの方々を魅了している由縁でもあります。
ビールの進化と共にホップの開発も進み、ホップの品種はゆうに100種類を超えています。ホップの使い方の探求が現代のクラフトビールの多様性を開花させたと言っても過言ではない、ビールの香りと味に大きな影響を与える原料です。
働き者の微生物!酵母の役割
3つ目の原料が「酵母」です。
菌類に分類される単細胞の「微生物」の一種である酵母の役割は、主にこの2つ。
①糖分を食べてアルコールと炭酸ガスを排出する。
②香りや味わいに特徴を与える。
4種の原料の中で唯一、ビールづくりの工程の中で“生きて”その役割を果たす、とっても重要な存在です。
ビールにももちろん不可欠!水のはたらきとは?
最後の原料は「水」です。
「ビール」という液体の90~95%を占め、醸造の工程すべてで本当に(本当に!)さまざまな役割を果たしています。
クリーンな水であることはもちろんのこと、「pH(ペーハー、水素イオン指数)」「硬度」「ミネラル含有量」といった水の特徴が、できあがるビールの色や味、香りに多大な影響を及ぼします。
以上、ビールづくりに必要不可欠な、ビールの基礎となり、ビールの可能性を無限に広げる4つの原料でした。
それでは次に、「この4つの原料の特徴をバランス良く引き出す作業」とも言える「ビールづくりの工程」を見ていきましょう!
ビールのつくり方をざっくりご紹介!
ビールの製造工程は、大きく
①製麦
②仕込み
③発酵
④熟成
⑤充填
に分けられます。
まずは「①製麦」について。
この工程では、大麦を水に浸して発芽させ、その後焙燥(乾燥+焙煎)させることで「麦芽」をつくります。この焙燥の過程で麦芽独特の色や香りの特徴が決まっていきます。
製麦には専用の設備が必要であり、また、品質・価格の面で海外の麦芽の方が国産のものよりも競争力が高い場合が多いので、日本のクラフトブルワリーの多くは自分たちの工場(醸造所)でこの工程を行わず、すでに製麦された輸入麦芽を購入するケースが大半です。
次に「②仕込み」と呼ばれる工程です。
この工程には、「麦芽粉砕」「糖化」「ろ過」「煮沸」「熱交換」といった細かな工程が含まれ、同日に行うケースがほとんどです(細かく言うと、もっとあります)。
「麦芽粉砕(ミリング)」で、その名の通り麦芽を細かく砕き、あとの工程で麦芽に含まれる「でんぷん」が水の中に溶けやすい状態にします。
次に続く「糖化(マッシング)」では、砕いた麦芽とお湯を混ぜ、かく拌します。このとき、麦芽の内の酵素がはたらいて、麦芽が持っている(酵母が食べることのできない大きさの)「でんぷん」が(酵母が食べることのできる大きさの)「糖」へと変わります。
マッシングが終わったら「ろ過」を行って麦芽の粕とクリアな液体(=麦汁)を分け…
麦汁を「煮沸」します。ちなみにこの煮沸の工程でホップを入れて、香りや苦味を引き出します。
煮沸が終わったら、熱々の麦汁を「熱交換器」に通して酵母が活動できる温度まで冷まし、発酵タンクに移します。
発酵タンクに移したら酵母を入れて「②仕込み」は終了。
仕込みが終われば次は「③発酵」の工程です。
この工程では、酵母が麦汁に含まれる糖を食べてアルコールと炭酸ガスを生み出し、同時に酵母由来の香りや味わいも生まれます。
エールであれば3~6日ほど、ラガーであれば7〜10日ほどで終わる発酵を終えたビールを貯酒タンクへ移し、0℃近くまでに冷やして2週間〜数ヶ月「④熟成」させます。
熟成期間は、つくりたいビールによってさまざま。貯酒タンクへ移さず、発酵タンクで熟成させるブルワリーもたくさんあります。
温度をぐっと下げることで酵母のはたらきが止まり、この熟成期間を経ることでビールに調和のとれた味わいや香りが生まれます。
完成したビールは、ケグ(樽)や瓶、缶への「⑤充填」工程を経て、飲食店・販売店・生活者のみなさんの手に届きます。
ビールの世界を深堀りしたい方へ!
今回は、醸造家が(とってもざっくりと)ビールの「原料」と「作り方」をご紹介しました。この2つのテーマは、知れば知るほど目の前のビールをより面白く、そしてもっと美味しくします。
酒造免許(お酒をつくる免許)なしで自宅でビールをつくることは日本では違法にあたりますが、「ビールの世界についてもっと知りたい!」という方向けに、日本人ブルワーの方で読む人も多い「ビールの作り方」に関する本を3つご紹介します。
※もう一度言いますが、免許なしに自宅でビールをつくるのは違法です。
最後に、今回解説してくださったブルワーさんからのコメントをご紹介。
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僕がビールづくりを志したタイミングで出会った、とある日本人ブルワーさんがおっしゃっていた言葉をご紹介したいと思います。
「一生かけても創りたいビールを創り切れるかわからない」
当時この言葉を聞いたときの僕は、その意味がよくわかりませんでした。あれから1年半ほど経った今もちゃんと理解できているかは分かりません。ただ、今回の記事でご紹介したビールの「原料」や「作り方」を学べば学ぶほど、少しずつ先輩ブルワーさんの言葉が輪郭をおびてきているような感覚もあります。
それほど、今回記事のテーマである「原料」と「作り方」は“ビールの世界”を形づくる2つのビッグテーマなのです。
たった4つの原料を使って、一見シンプルにも見える決まった工程を踏んでつくられる「ビール」という液体には、僕や、この記事を読んでくださっているあなたがまだ知らない、途方も無いほど複雑で底抜けに面白い世界が広がっています。
その世界のほんの一端を、この記事から少しでも感じていただけていればとても嬉しいです!
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そして、飲むときにはぜひ、麦芽、ホップ、酵母、水の4つの原料たちの役割にほんの少しだけ思いを馳せてあげてください!
クラフトビールといっても種類が豊富にあり、ホップの苦味や香りがクセになる「IPA」や、コクの深さが日本人に合う「ペールエール」などさまざまです。
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