「ビールの縁側」ばなし
Anglo Japanese Brewing Co.(長野県)
のはなし
野沢温泉のこの土地でしか造れないテロワール。100樽に及ぶ樽アーカイブもAJBの財産ですね。
スーツケースを1つずつ引っ張ってこの村へ。仕事も家も決めずにね(笑)
スノーボード旅でトムが初めて日本に来た2010年当時、村ではほとんど英語も通じなかったし、アクセスも良いとは言えず、不便ばかりだったと思います。そもそも村に来るまでが大冒険。実は福島県にも「野沢」という地名があって、彼は間違えて福島に行っちゃって(笑)。福島で間違いに気づいて、予約していた民宿の女将さんに電話して2日間かけて長野県の野沢温泉村に戻って来たんです。女将さんも英語が得意ではなかったのに、滞在中も親身に彼をもてなしてくれたようで、そんな人の温かさが心に響いたんでしょうね。 人生の次のステップを考えたとき、野沢移住を提案したのはトムでした。 今でこそ英語対応やキャッシュレス化など海外対応が進みましたが、彼は野沢温泉村の人たちの気取らず、飾らない人柄や、リゾートっぽくないありのままの素朴さが気に入ったようです。逆に私の方は日本に戻ることを考えていませんでした(笑)。
私がロンドンで出会ったとき、トムはアートの世界の人だったんです。
外資系の銀行で働いて転勤で5年ほどロンドンに住んでいた私は、イギリスの芸術大学の大学院を出て、彫刻家として活動していた彼と出会いました。二人で約1年間、バックパッカーとして世界中を旅して、彼の故郷であるダービシャー州に落ち着きましたが、カントリーサイドで野菜を育てる生活が私の人生観をガラッと変えました。そして2012年、28歳のときに彼が惚れ込んだ野沢温泉村に移り住むことにしたんです。スーツケースを1つずつ持って。
とりあえず気に入った場所に行ってみよう、仕事はそれから考えようと(笑)。
ブルワリーのことは全く頭になかったですね。
「食」に興味があったので、仕事は料理とお酒を合わせるポップアップイベントから始めました。土地を持っている村の人に一升瓶を持って挨拶に行って、畑を借りて有機野菜を育てながら日本各地の食材を集めて。ところが日本酒やワインはたくさんあるのにビールがないんです。クラフトビールも飲みたいと思えるものがなくて、ないなら自分たちが飲みたいビールを造ろう、そう思ったのがAJBのはじまり。
エールビールの本場、イギリスではどの街にもブルワリーがあるので、私たちは日常的にローカルビールを飲んでいましたし、ブルワリーの手伝いやホームブリューを経験していた彼には醸造ノウハウもありました。温泉とビールは相性抜群で野沢に人を呼び込むツールになります。クラフトビールを飲んだことがない村の人も、相談すると「ぜひ造ってほしい!」と精一杯応援してくれました。
人口4000人足らずの小さな温泉町には不動産屋もなくて、土地探しは1軒ずつ空き家を覗いて確認。「里武士」の場所は、温泉街の中心にある浴場「大湯」の向かいにある旅館の空き家でした。人通りの多い角地でお店をやるには最高の立地。ただし長らく放置されていたので中はぐちゃぐちゃ(笑)。二人で床を剥がして少しずつDIYで整えて、2014年1月にAJBとしてオープン。イギリスのパブには欠かせないハンドポンプを設置して、当初から英国式のビターエールやサワーエールを出しました。
地元の人にはビックリされましたよ!
炭酸が少なくて泡のないビターエールを飲んで、「なんじゃこりゃ!?」と驚かれたご夫婦が、翌日も「あの麦茶みたいなビールが飲みたくなった」と顔を出してくださって(笑)。ご夫婦は今も大切な常連さんです。サワーエールを造るところは珍しかったので、新作を出すと真っ先に飲みに来てくれる人も。「ここのビールを飲んで、嫌いだったビールが好きになった」と言われたときは、ビールの世界を広げることができてうれしかったです。
AJBを象徴するサワーとバレルエイジは、クリエイティブを発揮できるステージ
AJBのオリジナリティでいえば、野生酵母を使ったサワーエールと創業当時から力を入れている「バレルエイジビール」ですね。ビールをウイスキーやワインの木樽で熟成させて、香りや味に深みをもたせたものです。さまざまな酵母やバクテリアを研究して試行錯誤しながら仕込んできましたが、里武士では300Lのタンク達で精一杯。熟成樽を保管できるスペースは到底ありません。そこで、2017年にブルワリーを拡張して5000Lのオーク製のフーダー(木樽)を2基導入しました。
このフーダーでサワーやセゾン、インペリアルスタウトなどさまざまなビールを熟成させたり、熟成したビール同士をブレンドしたり、掛け合わせることでクリエイティブなビールがどんどん生まれます。芸術家肌のトムが独創的な発想を発揮できるステージなんです。どのビールも野沢温泉のこの環境、この地でしか造れないテロワール。今では100樽ほどになった樽のアーカイブもAJBの大切な財産です。
サワーとバレルエイジは多くのファンに支持されていますが、日本では飲める機会も限られますし基本的には高価で希少なものです。そこで、2018年にそれらを一堂に集めた「SSBBフェスティバル」を開催しました。「SSBB」は、Saison(セゾン)、Sour(サワー)、Barrel(バレル)、Brett(ブレット)(※1)を表す頭文字で、サワーとエイジングビールを集めた日本初のイベントです。紅葉の美しい北竜湖のほとりに注目度の高い海外のブルワーも招き、120種類のレアでユニークなビールを扱いました。以前からイベントをしたいと思っていましたが、どこでもあるものではおもしろくなですし、やるならAJBらしい斬新なものがやってみたいと思っていたんです。普通のビールイベントでは忙しくて売り子に徹してしまいがちなブルワーも、SSBBでは遊び心にあふれたビールにどっぷり浸って楽しんでもらえたようです。飲み手も造り手も、みんながハッピーになれるイベントがいいですね!
私たちが造るのは、あくまでも「自分たちが飲みたいビール」です。
2019年から、フランス料理店のシェフの呼びかけで、2019年から廃棄パンを使った「bread beer」をリリースしていますが、これも「ビールとしておいしいこと」が大前提。フードロスを解決するものだとしても、パンを使うことで少しでもおいしさを損なうのであれば、メーカーとして協力できなかったと思います。社会問題や環境のためとはいえ、おいしくなければ結局は飲んでもらえず、本末転倒になってしまいますから。
自信を持って自分たちがおいしいと思うビールを出す。
目指すのは、一杯、また一杯とずっと飲んでいたいと思えるビールです。
AJBは創業当時からその心持ちでビールに情熱を注いでいます。
(※1) Brettanomyces(ブレタノマイセス)酵母の略。サワービールに酸味を与える野生酵母の一種。
取材・文/山口 紗佳
ボトルや缶商品も販売していますが、タンクから直接充填されるフレッシュなものを味わえるのは魅力的です。実際に野沢温泉のタップルームを訪れたときのように、ここで飲むビールと同じ味を楽しんでください。
特定商取引法に基づく表記
企業名 | Anglo Japanese Brewing Company 合同会社 |
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所在地 | 長野県下高井郡野沢温泉村大字虫生345-1 |
運営統括責任者 | リヴシー絵美子 |
電話番号 | 0269-67-0710 |
メールアドレス | info@anglojapanesebeer.com |
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注文のキャンセルについて | 注文確定後のキャンセルは原則承っておりません。 |
【酒類販売管理者標識】 | 販売場の所在地:長野県下高井郡野沢温泉村大字虫生345-1 販売管理者の氏名:伊藤 奨悟 酒類販売管理研修受講年月日:令和3年6月16日 次回研修の受講期限:令和6年6月15日 研修実施団体名:中野小売酒販組合 |
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